魅力を引き出す舞台をつくる
器は料理のための小さな舞台である。美味しい料理は美しい器によってその感動を引き立てる。ここではそんな料理とお皿のように商品と空間が互いに作用し合う関係について考えた。主役である器の魅力を引き出す小さな舞台を用意し、それらの集積が店舗という大きな空間となる構成で、ひとつひとつの器にスポットをあて、余白をしっかりと確保することで器と向き合う空間、商品の魅了を伝える装置となる空間を目指した。
「木を隠すなら森の中」という言葉があるように、有田焼の器が大量に陳列されていた既存のショールームでは、探す楽しさがある一方でその情報量の多さから器の個性は埋没しがちである。そこで大量の器たちを色味や用途や窯元などで分類し“小さな空間と器のまとまり”という関係性に置き換えた。また空間は大きく3つのゾーンに分けて回遊性を高め、12mのロングカウンターや、ダイニングテーブル、キッチンといった具体的な利用シーンを想定した什器と器の関係。実際に使い楽しむことで有田焼きの魅力に触れることができるベーカリーカフェなど。それぞれのエリアで異なる器のための舞台を作ることで150坪の大空間をくまなく楽しめるよう計画。角地という立地を活かし一部壁を抜き、通りからカフェへの視認性を高め、自然光を取り込んだ心地よい環境により滞在時間を伸ばし陶磁器の専門店が軒を連ねる施設内において他店との差別化を図った。
陶石場から採掘した陶石を細かく砕き粘土にし、形成、施釉、絵付け、焼成と沢山の過程を経て作られる有田焼。土を連想させるマテリアルやカラーで統一することで、きれいに仕上がった完成品の器からは読み取りにくい原材料や手仕事など器づくりの背景を想起させることを意図した。