ささやかな操作による新しい建築の可能性
クリニックという機能的制約の多い中で、何が出来るのかを考えたプロジェクトです。
通常であれば移動のための場として利用される、閉ざされたエレベーターシャフトや階段室を、閉じるのではなく開いていくことで光を取り込むための、光井戸として上部から採光を確保する事を考えました。
光井戸からの採光は下階にいくにつれて照度が落ちますが、外部からは、棒グラフの様な開口部によって、下階の採光を十分に確保し、上階では徐々に開口部が少なくなる構成としました。この内部と外部がネガポジの関係性を持つ建物形態による採光計画によって、各階は均一な照度の確保を可能にしています。
また構造的に必要とされる壁厚と開口部の配列により、日本古来の格子戸の隙間から外を見るような、外部からは内部が見えにくく、内部から外部へは見通しの良い状態を作り出すことで、各階の機能とプライバシーの関係に対応しています。
また、家具については、人がいない状態の魅力について考えました。本来、座るためのイスですが座られていない時は、室内に置かれる観葉植物のような状態とすることで、室内に庭を作り出すようなベンチとして機能しています。人がいないときの病院独特の静けさを緩和するような、家具になることを意図しています。
形態、通路や階段、家具、光、機能など、様々な建築に関わる既にある要素を再考することで、大きな操作によるものではなく、ささやかな操作による、非常に汎用性の高い、クリニックのひとつの新しい基準にたどりつけたように思います。新しいけれども身近にある、そんな新しいベーシックについて今後も考え続けていきたいと考えています。