刈谷の家

離れることで繋がること

物で南北に分断されていた庭を
繋ぐように挿入された半屋外の空間
そこを通じて繋がれる「母屋」と「離れ」には
離れているけれど近い
心地良い距離が生まれる

離れることで繋がること

玄関をあけて室内に入り、通り土間を抜けて奥の居間にあがり、食事の時はまた靴を履いて食卓のある台所へと移動する。この幼少期の体験を振り返ってみると、まちと住宅が連続的に繋がっていたように思う。住宅の中に道があり、道によって生活の中に外部と内部が同居し、ひとつの住宅でありながらも離れがそこにはあった。各々に建っている住戸間の距離とは違う、親密な関係を持ちながら離れている状態について、今改めて考えてみたい。

愛知県刈谷市にある広い敷地の中には豊かな自然環境があり、建物の北側には背の高い樹木が生い茂り、南側には和風の築山が設けられていた。建物で南北に分断されていた庭を繋ぐように、通り土間を既存建物内に挿入し、南北で隔たれた庭を繋ぐ半屋外の空間を作ることを提案した。道が出来たことで、向こうとこちらが生まれ、離れているけれど親密な関係性のある、母屋と離れの関係を作り出した。

「離れ」は小さな書斎と個室として落ち着きのある場所、「母屋」は既存の間仕切りや天井を取り払った開放的な大空間のLDKとし、こもれる小空間と抜けのある大空間という、離れと母屋の個性を計画した。南北に庭を繋ぐ通り庭は、暑い時期は風を通し外部として、冬は太陽熱を蓄える内部の温室として、季節や気候調整の役割を持ち、食事や団欒、読書や睡眠、庭や道といった機能や名称の境界をボーダレスに受け入れるあいだという場所として存在する。

日中に自宅にいることが多い御夫婦の生活リズムに、明るさと暗さ、低さと高さ、大きさと小ささ、むこうとこちら、様々な対比の場所をつくり、その場所を通り土間が繋ぐことで、離れているけれど近い連続的な空間体験をつくり、心地良い距離の中で日々の生活が送られることになる。

建築を開いていくことや、まちとの繋がりを考えていく上では、閉じることで開放が生まれ、離すことで繋がっていく。そんなことに思いを巡らせながら設計をした。

建築や生活のこれからを考えること、それは過去の生活者たちの知恵に恩恵を払うことで、出会えるのかも知れない。これからを考えるために過去について考えながら、過去と現代が同居した豊かな環境をつくっていきたいと思う。

  • Details

data

竣工

2017年03月

所在地

愛知県刈谷市

用途

住宅

構造

木造

階数

地上2階建

設計期間

2015.02-2015.05

施工期間

2016.08-2017.03

敷地面積

5639.8㎡

建築面積

1201.26㎡

延床面積

1318.46㎡

credit

施工

小原木材

構造設計

tmsd萬田隆 一級建築士事務所

写真

矢野 紀行

担当者

谷尻 誠

吉田 愛

岩田 卓也

media

住宅特集 2017年12月号