つながるための境界
これは、鹿児島湾越しに桜島を望む小高い山の中腹に建つ家族5人のための住宅の計画である。眼下に広がる広大な鹿児島湾の風景は、ただただ美しく豊かである。しかしながら、この地域では桜島からの降灰の影響があるため、日常的に窓を開け放した生活をすることは少なく、建築と外部の関係は完全に分断されることが多い。
建物を建てることで風景との関係に隔たりができてしまうのではなく、むしろ風景と繋がるような場所をつくれないだろうか。このプロジェクトでは、境界線について考えることで、風景と建築の新しい関わり方を考えた。
白い紙の上に引かれた一本の線は、紙の上の空間をふたつに分けたように見える。その線を虫眼鏡で拡大していくと、線には太さがあり、さらによく観察してみると、その線は、隔てていたはずの2つの空間にまたがって存在していることに気づく。単純な線の中にも内と外が存在し、それらはグラデーションのようにじんわりと空間をつないでいる。
境界線上の空間を設計することで、内部にいながらも外部との親密な関係を築き、建物単独の空間から脱却し、外部までもが連続した空間へと拡張していく。ここでは、壁厚を拡張させることで、室内と外部の中間領域を広げ、場をうみだす。境界線から面に、さらには空間へとかたちを変える。
本来、外と中を隔てる壁であった場所に空間が生じることで、内の行為が外に近い場所まで拡し、閉鎖的でありながらも外部を感じる空間をつくりだす。軒を深く出し、内部を少し暗く設計することで、景色が鮮明に浮かびあがり、景色が日常生活とより親密な存在として扱われる。
隔たりとしての境界が、繋がるための境界となり、内は外により近く、外は内により近い存在として建物の外と中を豊かにつなぐ。
これは境界の建築である。