9つの切妻屋根がつくる多様な場
古き良き日本の古民家に見られる、田の字型プランから学ぶことは多い。
台所の隣には茶の間、その隣には客間や寝床といったように、それぞれ機能を持った部屋が襖1枚を介して隣り合わせに配置され、襖を開け放てばひとつの大広間が出来上がる。仕切ることと繋がることの選択が住み手に委ねられ、その変数の多さを受け入れる大らかさがそこにはある。
建主である料理好きのご夫婦からは、将来自宅でカフェを開きたいということと、食事を色々な場所で楽しめる家にしたいということが求められた。
計画地は群馬県安中市。当時敷地には複数の民家が立ち並び、老朽化に伴い住民は立ち退いた後ではあったが、かつて小さな集落のようなコミュニティが形成されていた面影が残っていた。
当然、既存建物を解体し新しく住宅を建築することになるのだが、かつてこの地に在った小さな集落の面影を継承し、この広い敷地に9つの切妻屋根の平屋を並べる計画とした。
切妻屋根のボリュームはそれぞれ、キッチンや水回り、リビングなどの機能を内包し、中庭を中心にずれながら繋がり回遊できる配置とした。建具を閉じればそれぞれが個として成立する部屋同士を、廊下を介さずダイレクトに繋ぐことで一繋がりの空間となり、外部に設えたデッキでさえも建具を開けることで繋がり、外部も含めたワンルーム空間となる。
一つひとつの部屋が各々の機能を果たしながらも、隣り合う領域を拡張させ合うことで相互作用を生み、予期していなかった居場所が複数現れる状態をつくり出した。
今は住まいとしてのみ機能している住宅も、近い将来カフェと住宅という2つの役割が求められ、長い人生の中では、家族の人数も変わり、世代を超えて住まいとして家族に寄り添うための懐が必要である。建主の未来を想像しながら、先人の知恵や慣習を紐解き新しい空間へと翻訳していくことが、われわれ建築家の職能ではないだろうか。