90坪の未完成
広島市市街地から車で10分程の距離に位置する夫婦と小さな子供達という4人家族のための住宅である。坂の途中にある三角形のこの敷地は、もともと活断層の通っているといわれる地域にあり、半年前の芸予地震の影響もあり、北東2方向の法面のあるこの土地は誰もが敬遠してきた場所であった。1,500万円という限られた予算の中で、敷地の安全性を確保しつつ、90坪の敷地に見合う大空間をどの様に構成するかと言う点からスタディーを始めた。それを突き詰めた結果、鉄筋コンクリート造+鉄骨造+木造に「未完成空間」と言うテーマを導き出すことが出来た。未完成とは、あくまで今後の急速なライフスタイルの変化に備える意味での未完成であり、家族と共に住まいも成長するべきであると言う考えが大前提である。
構造は、9,400×6,500×5,500㎡のコンクリート立方体の中に。寝室という鉄骨造のボイドを吊り、必要とされる部分に木造の床を設ける事により住宅を構成している。正面9mスパンを鉄骨の梁で飛ばす事により、構造材を省略する事が出来、かつ屋根の施工を容易にする事で工期短縮によるローコスト化が可能となった。
高い法面のある2方向と西日の射す西面をコンクリートの壁で覆い、朝日の射し込むリビング・ダイニングは、東南に向け広く開放し、子供室とリビングは、吹き抜けを通じ一体となり家のどこにいても家族の気配を感じる事の出来る住空間を構成している。唯一閉じた寝室は、不規則な生活を送られる御主人のために就寝だけのための閉鎖の要素と回遊性を持たせるための開放の要素。2つの要素を持たせ、6枚の建具の開閉により他室との親密な関係をもたらし住環境に新しいリズムを作り出す。
今回、厳しい条件の中だからこそ可能となったこの最小限の機能を備えた未完成の器は、太陽・月・風・季節を感じながら、家族の成長と共に完成されていく家になることを期待している。