遺構を引き継ぐ
武雄温泉駅から徒歩約15分。緑豊かな里山を背後に抱え、目の前には桜並木に彩られた川が流れる土地に白岩運動公園は位置する。
武雄市新体育館は、この公園内にある旧体育館の老朽化とスポーツに対するニーズの多様化・高度化に対応するために計画された。
白岩運動公園内にあった白岩球場は、昭和51年に建設され、44年間にわたって市民に愛されてきた象徴的な施設であった。
従来のアセットマネジメントの概念である「解体から新設」ではなく、こういった市民の方々が愛着を持っている既存施設の建築・ランドスケープ的な価値を見出すことを考えた。
私たちが提案したのは、「パークリノベーション」という大きなコンセプトの中にこの新体育館を位置づけることである。
具体的には、野球場として使われていた頃の外野の土手やダグアウト、観客席を残しながら改修している。これによって、白岩球場の遺構としての記憶を継承しながら、新たな居場所として活かしている。
武雄市新体育館はその旧野球場の内側に構える3棟でひとつの建物である。
巨大なボリュームとして単体で計画するのではなく、各機能に沿って屋根を分節することで周辺の景色になじみ、圧迫感のない建築としている。
メインアリーナ棟、サブアリーナ棟、そして軽スポーツルームのある事務所棟の3つに分節された建物の間には、柔らかく広がりを持つテラス空間を設けた。予め定められた用途にとらわれることなく、利用者が新たな使い方を発見できる場所として建物をつないでいる。
また、メインアリーナ1階の北側開口は大きく開け放つことができる。ここに深い軒下の中間領域をつくることで、スポーツイベント以外の利用時も公園と体育館を一体的に利用することができるよう考えた。
公園の延長として落ち着いた居場所をつくることで、スポーツ利用が目的ではなくとも、気軽に立ち寄り時間を過ごすきっかけとなる。
子どもから高齢者まで、あるいはプロの大会から日常利用まで、あらゆる世代や利用目的を許容し、多様な体験と交流ができる場となるだろう。
パークリノベーションはここで終わりではない。新体育館が市民の方々にとって愛着のある施設となり、新たな遺構として、未来の建築・ランドスケープへと脈々とつながっていくことを願っている。