自然の恩恵をどのようにして生活に引き込むことができるか
広島市にある家族3人のための住宅である。周辺は住宅が密集した市街地で、閉鎖的な様相をなしている。敷地の北-東-西の3方向には隣の建物が迫り、南側は幅員4mの道路に面している。また、その向かい側の土地にはポンプ施設が建っており、視覚的に敷地のそとに対して開くことが出来ない状況にあった。
このような、都市的な過酷な敷地の状況に対して、自然の恩恵をどのようにして生活に引き込むことができるかがテーマだった。そこで南北に2つの建物を配置し、外部空間をサンドウィッチさせ内側に開くコートハウス型式を採用することとした。内庭にある自然を生活の中により効果的に引き込む為、南北のヴォリュームにはリビング、水回り、寝室を別々のレベルで交互に計画し、それらをスロープによって立体的に連結させた。つまり、スロープはこれら別々の行為を連続させ、生活を成り立たせるバイパスとして存在している。
構造は、耐震性・施工性の面などから、鉄筋コンクリート造とした。仕上げとして、コンクリート打放しを用いることで、工程・コストの合理化を計ることのできる建物となった。一般的なコンクリート住宅のかたくつめたいイメージを、杉板化粧型枠を採用することによってコンクリートに木目を転写し、やさしく柔らかい表情をもつ素材として扱った。また、この住宅では、自己完結した閉鎖的なコートハウスになることを避け、道路側から格子をとおして中庭への空気の抜けをつくり、外にたいしても優しい表情を生み出すよう配慮した。
生活者は一日の流れのなかで中庭をとおして積極的に自然と関わりながら暮らすことになる。