さまざまなものが混ざり合う時代の建築
多くの建主が、外部に開くことが難しい環境下でも、内外を横断する空間の豊かさを求めている。建築を開放するための開口部と、プライバシーを守るための塀を、この計画ではそれぞれを別のモノとして扱うのではなく、互いを建築的に従えることで、開放とプライバシーという相反する要望に応えた。
敷地周辺は商業中心のエリアで交通量も多く、住環境としては決して良好な場所とは言えなかったが、依頼当初からその環境下においても静かな環境を確保することが求められた。
敷地周辺に塀を高く巡らせる中庭形式を採用すると、採光は確保されるが風通しは決して良くないため、高い塀を5つのリング状輪切りにし、ずらしながら積層させることで、ずれによって出来た隙間から光が各層へと届けられ、風が通り抜けていく。塀が3層の床とは異なるレベルで空間を分節し層状に重なることで、内外を繋ぐ役割を果たしながら、あるところでは内部まで引き込まれた塀は垂れ壁となり、背丈よりも低い横長な開口部を生み、外部を美しく切り取る。敷地境界に配されていた塀を空間に取り込むことで、内外空間に多様なスケールをつくりだし、囲まれた中での開放感を実現している。
塀のスケールをコントロールする非常にシンプルな操作が、まちに対しても一見すると5階建てのようにも見え、ワンボリュームの建築が持つ威圧感を抑えた外観として計画している。
建築が内部空間を、外構が外部空間を作り出すという従来の考え方ではなく、その境界を取り除くことで、外構が建築をつくり、内外共に建築としての空間化が図られる。
材料や情報が増え、効率をはかるためにセグメントされた現代において、適材適所という言葉の意味は理解しながらも、その領域を超えていくことで建築を構成する要素を統合させ、効率の先にある豊かさを実現する。様々なものが混ざり合い始める同居の時代。そこに、これからの建築の可能性があるのではないだろうか。