“許容するデザイン”が生むウェルビーイングな環境
1938年に竣工した第一生命保険本館は、近代建築における金字塔的な建築で、その後の長い歴史の中で改修を重ねつつも今尚その風格が受け継がれている稀有なオフィスビルである。また建築だけでなく内部空間の仕上げやディテールからもデザインへのリテラシーの高さが窺える空間であった。吹き抜けの立体的な構成、吹出口の機能を兼ねた天井グリット、寄木細工の床、窓から望むお堀端の素晴らしい景色。現地を訪問した際に印象的だった“既存の価値”を受け継ぎ、最大限に活かす形で “働く場”と”休息の場”が同居する空間にしたいと考えた。食堂として使われていた単調なワンフロア空間を、食事をしたり、仕事をしたり、会話を楽しんだりと、思いおもいに過ごせる公園のような場にする為フロア全体をひとつの街と捉え計画を始めた。大きな構成として「コンビニ、キッチン、食堂」の3つのエリアに分け、EVホールから各エリアを繋ぐ主動線を、ライブラリーとして設計。共用部の意匠を踏襲したオーセンティックな木質空間と、ライブラリーの両サイドに配したキッチンやコンビニのライトグリーンのタイル仕上げで、既存の重厚感と新たな空間との明確なコントラストを作り視認性を高めた。また、ボタニカルガーデンと名付けた植物と自然光が心地よいアトリウム空間は、既存のトップライトと吹き抜けの部分をガラス+フレームで囲い温室のように設え “働く場”から”休息の場”へとマインドセットするための食堂全体のエントランスとして機能するように配置。食堂エリアは、パークオフィス、カフェテラス、バー、グラウンドテラスなどテーマと個性を与えてゾーニングし、敢えて明確な道は設けずに公園に面したオープンテラス席、公園のベンチ、といったように街にある様々なシュチュエーションが混ざり合う多様な空間性を地形のような床の起伏や家具や照明によって構成していった。320坪の大空間は、エリア毎に設けた垂れ壁の操作や既存床の塗り分けでリズミカルに文節しながらも緩やかな繋がりをつくり公園のようなおおらかさと様々な使われ方を許容する場となった。既存の価値を受け継ぎ新たなデザインに変換し“次にバトンを繋げること”が歴史ある建築の改修の手法として、また求められたウェルビーイング(持続的な幸福)な場の在り方としても相応しいと考えた。