葵の家

まちの四阿

大きな縁側と適度な距離感
日本の家屋が持つ曖昧さを
より強調させることにより
まちという風景を獲得する

まちの四阿

出来るだけ多くの収納を。
ヒト・モノ・コトに興味津々なお施主さんから頂いた最初の要望である。
彼等が所有するあらゆるモノには、彼等が大切にする物語があり、
居住空間を圧迫してでも収納を多く設けたいという。
学校に面した住宅地にあり、集合住宅に囲まれているが比較的広い敷地の中で、
そのまちが持つ風景・音・風が、モノをしまうボリュームに阻まれることなく
彼等の元に届くような住まいを考えた。

建物の配置計画は水路と高さのある集合住宅によって湿度が上がりやすい東側に寄せ、
南・北・西側に大きく余白を取る事で、日射と風をコントロールしている。
1階にある通り土間は、奥行きが長い敷地に対し周辺環境から適度な距離を
取ることで生まれる敷地の余白を繋げると共に、生活動線として玄関と勝手口のような機能を持たせる事とした。
通り土間によって分かれたボリュームに寝室、収納、水周りを配するが、西側寝室は建具を開け放つ事で約1間の奥行きを持つ縁側のような寝室が生まれ、建物の周囲を回る基礎を利用したベンチと繋がる事で庭と一体的に利用できる部屋となっている。
2階のLDKでは、収納という開くこととは真逆の存在をいかに同居させ、緩やかに環境に開かれた空間に置き換えることができるかを考えた。求められているボリュームは大容量であることから、ここでは『収納』『縁側』という日本では見慣れた二つの住宅の要素を組み合わせ、新たに『縁側収納』という場所を提案している。通常の縁側よりも深く奥行きをとることで生まれる縁側収納の上部は、内外の中間領域によって住まい手のプライバシーを守りつつ、リビングの延長線上として機能し、360度水平に切り取られたまちがリビングの借景となっている。
2階東側に階段とキッチンの壁を配することで東側にある集合住宅からの視線を緩やかに遮ると共に、2階から入った風が1階へ抜けていくようになり、通り土間が締め切った状態であっても
外気が建物内を循環し湿度をコントロールしている。
奥行きの深い縁側空間によって必然的に軒は大きく張り出す形となり、
四方に開かれた窓からの日射と視線のコントロールに寄与している。

こうした昔ながら日本家屋にあった要素を収納というテーマをもとに再構築することで、
日本家屋が持つ内と外との緩やかな関係性を獲得し、住まいが持つ本来の気持ちよさを纏うまちに浮かぶ四阿のような住まいが生まれている。

data

竣工

2022年03月

所在地

静岡県静岡市

用途

住宅

構造

木造

設計期間

2013.09-2020.03

施工期間

2020.09-2021.08

敷地面積

350.50㎡

建築面積

87.87㎡

延床面積

155.09㎡

credit

施工

桑高建設

構造設計

堀江建築設計

植栽計画

植真 太田造園

写真

矢野 紀行

担当者

谷尻 誠

吉田 愛

木村 太地

media

住宅特集 2022年9月号