壁の多様性
開くことと閉じること、分けることと繋がること、相反することが同居する状態。我々はその状態に関心を持っている。
敷地は名古屋市の宅地開発された住宅地にあり、夫婦ふたりと、小さな子どもが暮らすための住まいをつくる計画である。ゆるやかにカーブした道沿いには住宅が建ち並び、プライバシーを憂慮してか、カーテンを閉じている住宅が目出つ。60年前に山を切り開いて開発された、この土地には、当時の自然の気配を、わずかながら感じ取ることができる。そのわずかな自然環境との関係を頼りにしながら、敷地に壁を配することによって、内外や空間のつながりを作りだすことを考えた。
計画は、長さ、厚みの異なる18枚のコンクリート壁を敷地内に配し、それぞれの壁は、厚みのある壁は断熱の機能、薄い壁は部屋同士を緩やかに分節し、内外を横断する壁は、内部と外部の関係をより親密にしていき、それらの壁配置・長さをコントロールすることで、必要な諸室を計画しながら、全体が分かれていながらも繋がっている状態を作り出した。敷地全体に配された壁に、シンプルな切り妻屋根をのせ、勾配が空間に変化をもたらし、軒の低いプライベートな場所と天井の高い開放的な場所が生まれている。また壁の重なりによって、躯体のブラインド効果で、プライバシーを守ることと開放することが同時に実現された。
建築をつくるということは、機能を考えることや、環境を考えること、構造、素材、形、法規、まち、にわ、家具、様々な要素を同時に考えることであるように思う。沢山の複雑な問題について考えることは、可能な限りシンプルな答えで考えると言う事でもある。今回で言うならば、壁という多様性を考えたことによって、ひとつでありながらも多数を考え、結果ひとつのシンプルな建築という形に、導くことが出来たのではないだろうか。相反するという矛盾、つまりそれは新しい関係性が潜んでいる状態とも言える。その新しい関係性によって生まれる反応に向き合うことで、建築の可能性を拡張していきたいと考えている。