大きさと小ささ
生活の場である住宅にとって広がりのある開放感と、周辺から守れている安心感は住まい手が求める交わることが難しい二項対立の典型といえるだろう。本計画の敷地は北面以外の3面を道路に囲まれ、採光通風に恵まれている反面で周りから見られやすい状況にあった。そんな敷地の状況を読み取り、共存の難しい開放感と安心感の関係について考えた。
構造を兼ねた1Mの垂壁により12.5m×7.5mの柱のない大きなワンルームを作る。6つのトップライトと中庭から自然光が入るこの空間は北側に並ぶベッドルームにとっては開放的で大きな庭のような存在になり、プライバシーを守りつつ、西側の大きな開口部から外の空気感を取り込む中間領域としても機能する。また床レベルから1950まで下りてくる垂壁は大きな空間を柔らかに分節しつつ、いくつかの小さな場所を作る。普遍的ではあるがそれぞれのキャラクターを持つ小さな空間の連続は開放感と落ち着きを同時に生み出した。
一方で横方向に連続する空間はその広がりを限定せず、場面に応じてその場所の大きさは自由に変化する。これは状況の変化や生活の更新に対応できる自由度と余白をもたらし、空間に伸び代が生まれた。施主により中庭の周辺に置かれた植物たちは中庭の植物たちと相まってさらに内外の関係をさらに曖昧にし、もとは大きな玄関空間として計画した前庭は来客時にテントを張ることでゲストルームになる。設計者がすべてを決定し作るのではなく、生活しつつ適切な場所を見つけ環境を作ることができる状況を設計することで成長を続ける住宅とした。
相反する矛盾を混在させることは非常に難しいことだがそれを成立させたときに新しい状況が生まれる。外にいるような開放感と守られている安心感を併せ持つ一つの大きな空間の中に、制限のない自由とグリッドによる整理という対立する関係を混在させることで、開放感と落ち着き、それぞれの性格を併せ持つおおらかな空間を目指した。大きいという小さな空間の集合体で相反する状況の二項対立ではない共存を実現した住宅である。