美術作品と共にすしを楽しむ素材空間
寿司屋という言葉から空間を想像すると、自然と白木のカウンターをイメージするのではないだろうか。それほどカウンターは寿司屋という空間を物語っているのかも知れない。カウンターをデザインすることが寿司屋をつくることと密接な関係があることは言うまでも無いが、「よしい」では、根源的な寿司屋としての場所をつくることを考えた。
東麻布の決して目立つことのない小さなビルの2階、狭い階段を上がり扉をくぐると、しっとりと静かで必要最小限のわずかな灯りのある良い意味での緊張感のある空間を用意した。鮨を握るための美しいまな板というステージを舞台として、職人が鮨を握った瞬間、その場所に寿司屋という空気が漂い、店主の会話によって緊張から解放される。
最小限の操作によってつくられた空間では、最小限の時間で出来上がる食というアートと、壁面に飾られた作家のアート作品を同時に楽しむ事ができる。
ステージを引き立てるために選ばれた敢えて古くラフな質感のカウンターを用いたことで、まな板は顕在化し、空間操作をスケール操作のみで抑える事でアートが浮かび上がった。
日本の古来からの侘び寂びという意識に寄り添うように空間をつくることで、本能的に食することが意識化される体験の場になったのではないだろうか。
長いテーブルに人が並び、食というアートが提供されたとき、人々はその場所を寿司屋と呼び始める。ここは寿司屋のはじまりの場所である。歴史を遡ること、それは現代においても物事のはじまりに立ち会うことである。新しさは歴史の中にある。