カット原理を用いた空間
彫刻とは、木、石、土、金属など、素材の特性を活かしながら、塊を削るというシンプルな行為から生まれる芸術作品である。
本計画のCIRCUS by BEAUTRIUMは、『彫刻カット』という独自のカット技術を持つ美容室であり、それはまさに、それぞれの髪の特性を活かしながら、彫刻のように削ぎ落としていくカット手法である。その手法にインスパイアされた私たちは、空間にもその原理を用い、空間を彫刻として設計することを考えた。
まず『削ぎ落としていく=解体』という行為において、竹のフローリングとガラスのショーケースは残し、過去につくられた記憶を継承することにした。そうやって削ぎ落とした空間の中で、既存の柱や梁などの躯体をひとつの塊と見立て、新しく加える什器や間仕切りを全て塊とすることで、徹底的に空間を彫刻化した。その中でもカット什器の塊は、H鋼の上に置くことで、ヘアカットという行為が行われる芸術作品としてひきたてた。
通常は足していくことでつくる設計と、ひいていくことでつくるヘアカット。設計と美容という普段遠い関係の2つが『彫刻カット』という考え方で結びつけられ、過去につくられた時間の記憶と新しさのもつ力が同居した空間を生み出すことができたのではないだろうか。