大屋根の影と水面
建築は、すすんでいる。
様々な新素材や、高性能な商品によって、すすんでいる。家の価値を決めるかのような、足し算によって、建築の豊かさが計られているかのようだ。
ここで求めたのは、新しい豊かさである。
昔からある、光や風、水や影といった決して新しい材料ではないが、建築と常に関わりのある要素をもう一度、見直すことで、これからの豊かさになるのではないか。熱いときには、木陰に入ったり、水を見ることで涼しさを感じたり柔らかい光や風を感じたりと、いたってあたりまえであったことをもう一度見直すことから導き出せるのではないかと考えた。よって、ここでは、大屋根によって、敷地に大きな影の空間をつくり、水面で冷やされた風が室内を通り抜けていくための形態をとっている。
環境について考えるということは、設備機械や減退の技術で対応するのではなく、形態や、可能な限り自然の力に従うことで語られる、環境との関わり方や考え方をシフトする、ということではないだろうか。物質的に豊かな時代だからこそ、ものの価値が見えにくくなっている。過去に遡る行為によって、ごく当たり前を、あたりまえに感じることのできる、そんなささやかな豊かさが続いていく住まいを、ここでは実現したいと考えた。