hotel tou nishinotoin kyoto

光と間合いで「奥」へと導く

物と余白の関係性がつくる“間合い”
人の視覚や予感や想像力といった“感覚”
それらを整理し
体験と場の空気感をつくる

光と間合いで「奥」へと導く

西本願寺と東本願寺の間、西桐院通り沿いに建つこのホテルは、仏具店が軒を連ねる閑静なエリアにある。観光客で賑わう中心部から少し離れた立地であることもひとつの個性と捉え「奥」というコンセプトを軸に、落ち着きのある空間、京都の歴史や文化の“奥深さ”を感じられるホテルを目指し計画を始めた。
「奥」の解釈をまずは二つの表現方法で定義した。一つは空間の“構成”としての奥。そしてもう一つは奥ゆかしさや曖昧さといった“感覚”による奥の表現だ。この二つの考えから空間と体験の双方において空気感までを設計することで、条例によって整えられある種、画一化された印象の否めない格子や瓦屋根などの“表層的な京都のイメージ”を仕上げとして纏うホテルとは一線を画した、このホテルならではの魅力をつくりたいと思った。

ホテルの第一印象をつくるアプローチ。ここは細長い銅の箱を建築内部に挿入するように構成し、奥の光を目指し細く長い路地を歩く体験が、街の喧騒から静けさへと気持ちをシフトさせエントランロビーにとって前室のような存在として作用する。
建物の中心を貫く中庭は、鑑賞する庭としてだけでなく“光の場”として計画に取り入れた。奥を表現するには当然ながら手前が必要となる。手前に暗さをつくり目線の先に光(中庭)を配することで、レストランやロビーでは格子枠で低く絞った開口部から差し込む光が、また地下の大浴場では上部からの光が曲面が連続する壁に陰影をつくり空間の奥行きを感じさせる。色味を抑えた仕上げでさらに明暗の対比を強調し、光と奥行きを顕在化させた。
客室は、靴を脱いで床座で寛ぐ日本の生活様式を用いて、畳の小上がりやベットを造作し空間要素を絞り込むことで低いレベルで水平垂直を強調したプランとした。計画地周辺は住宅地であるため、近隣配慮の視点から窓からの景色を楽しむのではなく、障子とサッシの間に照明を仕込み開口部自体を行燈と見立て、格子の影や障子からもれる光のその先に“奥の間”を連想させ空間の広がりを感じられるよう意図している。

このプロジェクトで大切にしたのは、物と余白の関係性がつくる“間合い”や、一つの石が想起させる庭の存在など、人の視覚や予感や想像力といった“感覚”をデザインすることで、奥へと導くシークエンシャルな体験と場の空気感を設計したことだ。それらに加え、枯山水や茶の湯など日本文化に根差す美の概念。その奥深さを、造園・アート・本・グラフィック・食のクリエーターの感性が加わり、訪れる人の感性によって多様な解釈で楽しむ体験こそがこのホテルの目指すべき在り方ではないだろうかと考えた。

data

竣工

2021年04月

所在地

京都府京都市

用途

ホテル

構造

S造

階数

地下1階・地上4階

設計期間

2018.04-2019.08

施工期間

2019.08-2021.01

敷地面積

1284.60㎡

建築面積

931.84㎡

延床面積

3879.20㎡

credit

所有者

芙蓉総合リース

企画・監修

安田不動産・双日

施工

鍜治田工務店

実施設計

東洋設計事務所

外部空間計画

LANDSCAPE NIWATAN DESIGN+ARTISAN OFFICE

FFE

未来創作所

照明計画

ModuleX

製作照明

seventh-code

グラフィック

artless

カフェ・バー ディレクション

unité

選書

BACH

アートワーク

ハタノワタル

運営者

ウィズシード・ホスピタリティ・マネジメント

写真

長谷川 健太

担当者

吉田 愛

谷尻 誠

杉浦 絹代

岡西 雄司

media

商店建築 2021年7月号 

Casa BRUTUS 2021年6月号

商店建築 GREEN is vol.03