都市の中の山小屋
20年来の友人からの連絡に数年ぶりに会いにいくと、趣味の登山で訪れた屋久島で出会ったコーヒーと、自然の中でそれを味わう体験に惚れ込み、長年の夢であった屋久島で出会った珈琲を楽しめるお店を開きたいという。
敷地は通りに面した駐車場と飲食店のあいだの細い路地を数メートル入ったビルの1階に位置し、通りを歩く人からの視認性は悪く、天高の低い小さなスペースは好条件とはいえない立地である。
しかし、お店を探す不便さも裏を返せば、山登りの途中で一息つける山小屋で飲む一杯の珈琲のように、わざわざがあるからこその「味わい」になり、低いことや小さいことは珈琲をいれる店主との距離を縮め「親密さ」を作る要素となると考え、これらの条件や既存の空間に積極的に寄り添う計画とした。
ワンルームの住居だった空間を最小限の工事ですむよう少しずつ解体をしながら残す部分と作る部分を決めていった。天井は現しのうえに新たに木下地のみを計画し既存天井との間をつくることで天井高さに奥行き持たせた。
また路地から繋がるエントランスの「抜けのある場所」と、実際に店主が屋久島まで足を運んで選んだユズリハの木で製作したお店の中心の大きなテーブルのある「低く落ち着いた場所」という2つの異なる場所を持つことで、小さい空間であっても各々が気分に合わせくつろげる構成とした。
屋久島の空と海と森が溶け合った様な印象的なブルーグリーンの店内は自然に包まれるような感覚を与える空間となり、店主の個性が感じられる都市における山小屋のような存在として地域の人の憩いの場となっている。