関係性の中に潜む可能性
美野島に計画したL+DESIGN STUDIOの展開として約1年後竣工した「L+HIRAO」は、西鉄平尾駅から目と鼻の先に建つ倉庫型の建築を改修し、カフェ、ボタニカルショップ、そして分譲マンションのモデルルームそしてオフィスという4つの機能と用途を内包する空間として計画した。
自然が身近にある暮らしを提案する場でもあるここでは、植物を積極的に参加させる空間として倉庫という大きな空間をひとつの敷地と捉え、その中にいくつか対比をつくった。天井を剥がして現れた鉄骨造のフレーム(錆止め塗装のエンジ色)はリノベーションならではの既存とのセッションとしてそのまま空間に取り入れ、緑×赤という補色関係で植物をより鮮やかに引き立たせるという意図で建物全体もエンジ色で仕上げた。前面道路から建物までのセットバックを活かした屋外テラスと緑豊かなファサード。それらの構成を内部に引き込み、カフェは植栽や起伏によるベンチやカウンターなど様々な居場所を設けランドスケープを設計するように計画。エンジ色の空間にLDKと書斎からなるレジデンス空間をすっぽりと挿入し“カフェ”と“モデルルーム”というもうひとつの対比を作った。ここでは仕切りのない実質的な空間の繋がりは担保しながら同時にモデルルームの存在感を顕在化するため仕上げや色で意図的にコントラストを作っている。
一般的なモデルルームは、完成した空間をそのまま再現し見るためだけの空間。対してここでは空間を区切ることなく大きな空間に異なる用途を同居させ(モデルルームの植物も商品であり、カフェが商談スペースでもあるといった具合に)すべての場所をお客さんがカフェ利用できる客席として扱うことにした。それによりダイニングテーブルでランチを食べたり、書斎のラウンジチェアで本を読みながらコーヒーと飲んだりと暮らしの場(住宅)を実際に体験してみることが出来る“カフェでありモデルルームでもある”という新たな形態の提案にもなっている。異なる色同士、異なる空間同士の組み合わせや使い方。そういった関係性の中に潜む可能性について掘り下げることで既存の枠組みになかった場所や体験を見つけることが出来たのではないだろうか。