光を感じ、光と向き合う
日本の大手電機メーカーの、東芝が国際家具見本市ミラノサローネに出展した際の会場構成プロジェクト。LED照明をテーマにしたインスタレーションである。
光とはいったい何なのか。LED照明は当時、白熱電球に比べ人工的な光といわれていた。そのLEDを使ってどこまで自然な光をつくれるのだろうか。光をつくる技術の目指すべき地点は、限りなく自然光と同等の光をつくる技術であり、いかに人工的に自然をつくることができるかというチャレンジの姿勢そのものを展示することを提案した。
光を説明するのではなく、光を感じ、光と向き合う空間を考えた。空間を抽象化し、日常を感じさせない、何もない空間をつくる。同時に聴覚的にも境界がわかりにくい空間とし、内側なのか外側なのかもわかりにくい空間の仕組みをデザインし、繊細に移ろう光の中で、改めて光の持つ美しさ、豊かさなどを再確認する。そんな空間が人それぞれの記憶の中にある光ある風景を結びつけ、本来の光の美しさを感じられるのだ。
会場はミラノのトルトーナ地区にあり、建物も石造りのものが多く、道は石畳でつくられており、硬質なマテリアルで街が形成されている。そんな街の喧噪を一度リセットするために、前室を暗く静かで踏み心地の柔らかい材料で床をつくり、その向こう側に、人工的につくられた限りなく自然に近い光のみが存在する部屋をつくり出した。
光に包まれるかのような空間を実現するために、影ができにくく、奥行きが判断できない霧のような場所をつくることで、建築の存在を消し去った。その場所では東芝の最先端の光に人々は包み込まれる。演出や音楽はすべて排除した。そこに存在する壁自体を振動板とすることにし、壁をスピーカーとして使い、来場者の足音を集音し壁から足音や話し声が出力される仕組みを設計した。決して華やかな演出ではない、ただそこには光と音の根源的な要素が存在するだけのインスタレーションは多くの人々の心象心理にメッセージを届け、原初的であり未来を示唆する展示となった。
テクノロジーの最高峰は自然をつくることである。自然と人工、その間に我々は可能性を見つけ出そうとしている。