奥行をつくる
本計画は、銀座の鳩居堂ビルという歴史を重ねる場所に店を構える、買取専門店のフラッグシップである。
買取の場では、価格や査定基準といった取引の要素が前面化しやすく、体験が事務的になりがちである。一方、クライアントはリユースを「モノと人をつなぎなおす」行為として捉えている。モノが人から人へと受け継がれ、時間の積層によって価値が更新されていく——その価値観を空間として表現し、ここで過ごす時間が単なる取引にとどまらず、モノの継承に向き合える体験となることを目指した。
設計の軸としたのは「奥行き」という概念である。それは物理的な距離にとどまらず、時間や精神の奥行きも含む。階段室にまで連続する左官壁が都市の喧騒からの切り替えを促し、来訪者を店内へといざなう。視線の先を一望させない平面構成の中で、曲線を描く壁、それに沿って伸びる真鍮のライン、飾り棚、奥に垣間見える家具といった設えが、意識を自然と空間の奥へ導く。プライバシーを確保するために空間を区切りつつも、その間を「奥に通される」動線として設えることで、店のもてなしの姿勢をにじませる。
手仕事を感じさせる左官仕上げを空間の基調とし、建具や光天井、サインといったディテールにも同様の要素を織り込む。細部には層と陰影を設け、平面計画で生んだ「奥行き」を連続させる。真鍮、木、ヴィンテージ家具など、使い込まれるほどに表情を深める要素が、リユースの考えに宿る美意識を下支えする。
地下空間の暗さは、喧騒から切り離された静けさとして捉え直した。ベージュトーンの左官とカーペットで全体をまとめ、視覚的なノイズを抑えながら、包み込まれるようなやわらかさを与えている。床は吸音性の高い仕上げとして歩行音や反響を抑え、偏りのない光をもたらす光天井が、地下空間の閉塞感を和らげる。
これらの要素の積み重ねにより、モノの背景と次への受け渡しに向き合える場をつくる。そしてこの空間自体もまた、時間を内包しながら価値が更新されていく器となることを願っている。