大屋根の下で自然を感じる式場
結婚式場という、二人にとっては一度きりで、はじめての行為のための建築です。
敷地は広島県広島市南区にあり、全面は道路を挟んで海に面し、敷地の裏側には国有林を背負う自然に囲まれた、豊かな場所にあります。結婚式場というと、装飾的な空間をイメージしがちですが、ここでは周囲の自然との関わりについて考え、建築は可能な限り控えめで自然がより美しく感じられる場所となることを目指しました。
式場に必要な要素である、ホワイエ、チャペル、バンケットホール、この主要な場を、まるでリゾート地のヴィラのように、分棟として平面計画し、積み上げることで、それぞれの部屋の間には必ず外部が介入してくる仕組みとました。移動することで、内部と外部が交互に体験でき、水盤や、緑といった自然の材料を大屋根の下で、鑑賞し体感できる全天候型の計画にしています。
今回、あらゆる要素を、式場での体験と同様に、はじめての行為と考え、どんな小さなことでも、城跡を疑いながら考えていきました。場所にふさわしい建築、場所にふさわしい平面計画、場所にふさわしい家具、場所にふさわしい照明、場所にふさわしい本など、様々なふさわしい状況を手探りで、すすめてきました。このように些細なことも丁寧に探っていく設計のプロセスには様々な発見があり、設計という行為が、建物だけにとどまることなく、その場所でのコミュニケーションをも誘発するきっかけをつくることにつながったように思います。多くの期待と不安が介在する"はじめて"には、そんな苦難と魅力が同時に存在します。
登山のような、きっと登ったことのある人しか見ることの出来ない風景が、そこにはあり、その場所にしかない豊かさ、その場所にしかない感動、それを実現するための建築にたどり着くには、必ず道なる道を歩む必要があるのです。
どのような建築を思考する時も、この"はじめて"の気持ちを忘れることなく、常に新たな道を目指し、新しい豊かさを探していきたいと考えています。