名前から解き放たれた空間
世の中は名前が支配しているのではないだろうか。一般的に、ゴミ箱と呼べばゴミを入れるものとして使い、それを逆さまにして椅子として使おうとはしないように、名前自体がそのものの使い方さえをも決めているのではないかと思うことがある。
オフィスにおいても同様のことがある。社員食堂では、お昼の時間だけ、食事によって、その空間が食堂と定義され、会議室では会議がない時は誰も使用しない部屋になっているのが現状である。オフィスにおける部屋の使われ方や時間が名前によって制限されていないかを考察することで、新しいオフィスの使われ方と環境を溶く計画とした。
この建物のエントランスを我々はパークと名付けた。扉を開けた先にひろがる空間は、もちろんエントランスホールとして機能しながらも、お昼になれば社員がお弁当を持ち寄り、食事をすることによって食堂となり、お客様と商談すれば会議室へと、部屋の名前が変わっていく場所となる。
またこのパークがエントランスだけでなく、執務空間をぐるりと囲い込み、外部と内部の中間領域になることで、オフィススペースのエネルギー負荷を最小限に押さえる役割と、ルーバーに平行して内側全周に設けられた棚が、書類やカタログといった一時的に利用するものの収納場所になる。オフィススペースからは収納体積がディスカウントされ、空調を機能さる必要最低限の体積へエネルギーを使う状況を設計した。
このように使う人が行為によって場所に名前をつけていくことで、あらゆる場所に機能が生まれることとなった。すでに社会に定着している名前や概念を一度取り除くことによって新しい空間の可能性を見つけることができたのではないかと考えている。名前を取り除き機能を拡張させながら、再度名前を付けて、人の使い方を導く。そんな「名前と建築の関係性」に可能性を感じている。