自然を内包した空間
都市に住むということ。
レストランで食事をし、ホテルで眠り、洗濯はランドリー、書斎は図書館、入浴は銭湯、現代は離散しているものをつなぎ合わせることで都市という大きさを住宅として定義できる社会背景があるように思う。離れていることによって、移動という体験が生活に加わり、体験が生活に豊かさを与えているようにも思う。
代々木上原の20坪の敷地に、アートディレクターのご夫婦と猫2匹が生活するための事務所併用住宅をつくる計画に際し、建主が建築家に与条件を伝え依頼するというかたちではなく、ものづくりという共通の観点から、互いにリサーチ、スタディ、計画を交える方法をとった。建築的視点とグラフィック的視点による、多様性が生まれる環境を設定しながら、設計者だけでは辿り着けない、設計のプロセス自体を設計した。そのやりとりの中で拾い集めた言語やスケッチ、模型で、住まいの中に山や谷、公園のような場所をつくり出すなど、求めるイメージが示唆された。日々の暮らしと仕事のための機能とそれらのイメージを建築で内包し、生活のすぐそばに公園のような大きな階段室がある構成が生まれた。この構成が階段の登り降りによる体を動かす体験や、家を出て事務所に通勤するような距離感を生んでいる。ある場所は事務所、ある場所はリビング、ある場所は本を読むための場所というように、時間や季節、行為によって居場所を選べる人工的自然環境とも呼べるような住まいである。
職住一体という働くことと、生活が隣接した状況を、断面という距離を持つ関係として計画し、ひとつの建築でありながら、離れている状態として計画したことで、都市という体験が内部に存在する住宅となった。
大きな階段室のコーナー部に切り取られた開口部は見る位置によって形がかわり、室内に予期できない光を導く。予期できない状況、その偶然性が存在するとき、人は新しさや発見に出会った時なのではないだろうか。小さな空間に大きな体験を生む、自然を内包した空間が生活を豊かにするきっかけを持っているのではないだろうか。