空間を味わう
料理人の所作や美しい器が美味しい料理をひきたてるように、ここでは珈琲が出来るまでの過程をオープンにして視覚、聴覚、嗅覚で製造過程を体験しながら珈琲を飲める多様な環境をつくることで、その一杯の味わいに深みを感じてもらえる場を設計した。
都内に数店舗のコーヒーショップを展開されている猿田彦珈琲にとってこの調布のお店は過去最大の大きさであり焙煎機能を持ったハブとなることから、スタッフが力を注ぐ珈琲に込められた思いや現場のリアリティーをお客様に伝達するために「生態展示」という変わったアプローチを用いた。
動物の習性をいかした見せ方が主流となっている昨今の動物園にならって「珈琲屋さんの生態展示」として、キッチン、トレーニングルーム、豆倉庫、焙煎室をガラス越しに眺められる構成とし作業工程が説明されたパネルやカッピングの時間を記述するホワイトボードなども公開し情報をオープンソース化した。それらは選書家による珈琲関連の本や、セバスチャン・サルガドの写真作品などのコンテンツとともに珈琲の魅力を根源的なところから伝え楽しめる要素となっている。
また調布という場所を考慮し広い年齢層の方や子供連れのお客様に「もっとも心地よい空間」と感じて頂けるよう店内をリビングと見立てた。感覚的に安心感を体感できる柔らかなカーペットで迎え入れ、子供達がくつろげる縁側の様なソファー席を設けるなど、いい意味で生活感を取り入れることで緊張感をとりのぞき、知らず知らずのうちに時間が経ち「空間を味わう」という豊かな体験を珈琲ととも過ごせるそんな空間を目指した。