知へのはじまりの木
渋谷にある大学の校舎内に、学生や地域の人々が利用できる本棚を設置する計画である。本を読むことから遠ざかっている現代社会において、どのようにして本を手に取り、どのような場所で本を読んでもらうのかを考えた。設置場所は校舎1Fのエントランスホール奥。今まで学生が授業の合間の空き時間や昼食時に自由に利用できるテーブルと椅子のみが設置されたフリースペースである。このスペースはエレベーター前のラウンジでもあり、学生の日々の動線においては欠かせない場所となっていた。
この場所に一本の木(本棚)を建て、日常の中のふとした瞬間に何気なく本を手に取り、本を読むことができる場所をつくった。高さ1400mm程度しかない軒下をくぐり抜けると、通常隅から隅まで、足元から身長を超える高さまで重く敷き詰められている本が、目線の高さで軽やかに浮遊し、魅力的な表紙がそれぞれの本の個性を程よく主張する。
ステップを上ると360 度本に囲まれた空間が拡がっている。本を手に取りソファへと腰をかけ、本を開き、視線を落としてみると、深い軒先の向こうに拡がる、大学の風景とはつながりを持ちつつ、他者と目線をあわせること無く居心地の良い居場所で本を読むことができる。
「みちのきち」とは未知を既知とする基地であり、学びの始まりが一本の木から始まったように、この本の木から、知への始まりが生まれることを考えた。