敷地を川とみなし橋梁を架ける
傾斜地や変形敷地、また今回のような段差のある土地においては、通常は造成を行った後に建築が計画されることが多い。施工性への配慮を考えると当然なのかもしれないが、個性を失っていくようにも感じられる。ここでは、その個性が建築にそのまま影響を与えることで、悪条件な段差のある敷地と、隣接した好条件な竹林との関係性について考えたプロジェクトである。
この計画は簡単な方法によって、その個性と向き合っている。段差のある敷地を川の上とみなし、そこに橋梁を架けるかのように、コンクリートの梁を上段、下段それぞれに設置し、その間に橋桁を架けるようにつくられている。川の上での施工は非常に困難なため、設置面を少なく計画し、掘削、残土処分を最小限に抑え、支持層を最小限の範囲で獲得することにもつながっている。橋脚にあたる落ち着いたコンクリート造の場所には、和室や書斎、浴室、寝室などを計画し、橋桁にあたる鉄骨造の架けられた開放的な場所には、リビングやダイニング、キッチンなどを配置した。
川の上で橋梁を施工するかのように建築がつくられてゆくことによって、橋の上で竹林を眺めて生活しているかのような、そんな長閑な風景を手に入れることに成功した。気づけば、敷地の個性は建築が完成したことによって希薄になり、竹林と生活の場だけが浮き上がって、悪条件な敷地とは思えないほどの豊かさを称えた魅力を帯びていた。個性とは受け入れる器がない時にこそ、反発するものだと思う。今回のように、敷地と対話をするかのように計画してゆく環境下では、むしろ個性がその場所の魅力を、また周囲との強い結びつきをより強化するきっかけとなることを発見できた。
建築が建築の領域に留まることなく、異分野の技術や思考が反映されて開かれていった先で、これからの建築に出会えるのではないだろうか。