大きな屋根がつくる陰
日陰の何とも言えない居心地の良さは誰しも経験がある。涼を求めて人が陰に身を寄せるのは、やわらかい陰と風に交わる場所を身体が欲しているからだ。自然が生み出す心地よさを建築によって再現する事を考えた。
敷地は三方向に開き、風通しが良く日当たりに恵まれていると同時に建築に対して日射による熱負荷も手に入れてしまう場所であり、この課題に対して我々が考えたのは大きな陰を作ることであった。
建物をダブルルーフとすることで包み込む大屋根が大きな気積を作りだす。夏期は屋根と屋根下建築とのあいだにうまれた空気の層を使い暖かい空気は重力換気により小屋裏へ通り抜ける。
冬期は中間層を集熱装置として扱い、冷風の対流を回避して室内の熱環境を安定させることに寄与した。
工業製品である断熱材と中間層をつくる古来からある工夫を現代の住宅として融合させる形で昨今の気候変動に柔らに対応していく住宅の姿を追い求めた。
人それぞれが感じる快適さという曖昧な感覚を測るものさしは慣れ親しんだ経験の中にある。気候や風土と共存するために限られた要素を工夫を積み重ね、不便さゆえに進化してきた日本的な知恵を再構築することが、厳しい熱環境を穏やかにして心地よい気温への感覚を呼び戻していく。