高低差と分節が生む豊かな住環境
心象風景に浮かぶ8つの小屋敷地は名古屋市の南端に位置し、昔は畑だったところを大規模な宅地に開発したエリアにあり、周辺には宅地や畑、雑木林や竹林が点在し混ざり合う丘の頂部に建つ。住宅街でありながら自然も残り、何ともいえない風情のバランスにおいて、日本の田畑の農機具庫のように風景に馴染む小屋のような、あえて控えめで簡素な構えがよいと考えた。
接道から3mほど盛り上がる敷地に対し、複数の床のレベルを設定し、地形を内部に取り込んだ。プランは必要とされる機能をそれぞれ小屋に置き換え、8戸の小屋の気積や関係性、開口の位置を検討しながら進めた。エントランスから奥へ進むにつれてシーンが切り替わり、床や床の段差、ソファ、デスクなど、過ごす場所や時間によって広がる景色も変化していく。同じ時間でも方位の異なる開口部からは異なった外光が入り、小屋の繋がりによって同時に多様な明暗をもつ空間が生まれる。
外壁と屋根はガルバリウムの波板の同材とし、軽やかな印象とすることで倉庫のような即物的な建築の佇まいとなることを目指した。
今後、周辺の雑木林や畑に建物が建てられ、空き地が雑木林になり、周辺環境が変化していく中で、控えめだからこそいつまでもその場に漂う、空気感と共存する住宅となることを考えた。そしてそれが、誰もがもつ心象風景を想起させ、風景に溶け込む普遍的な住宅となることを願っている。