虎ノ門横丁

道を楽しむ横丁の魅力

失われつつある昭和の東京と
新たな都市として開発が進む東京
対比により際立たせて過去と未来が
混ざり合うような“分からなさ”を
魅力に変えたいと意図した
名店が集う東京の新たな食の発信の場

道を楽しむ横丁の魅力

2017年秋、再開発が進む東京・虎ノ門に建設中の超高層複合タワー内、「名店が集う東京の新たな食の発信の場」をテーマとしたフードエリアをデザインするコンペに参加することから、このプロジェクトはスタートした。食通が選ぶ東京の名店がずらりと並ぶ名店街の計画において、私たちは「新・横丁/道という社交場」と題し、個店の魅力にとどまらない“集合体としての魅力”を引き出すことに焦点を当て、“名店をはしごする仕組み”とそれらを実現させるための“楽しい道”をつくることを軸に、横丁という形態を提案した。
 建築の躯体自体を敷地として扱い、高さの異なる屋根を持つ26軒の小さな建物を建てることで、路地や広場を生み出した。そして、通路幅を1.6mまで絞り、狭い路地に沿って各個店に3〜6名が立ち飲みできる、通称“はしごカウンター”を設けた。店舗の壁面ラインを実際のリースラインより600㎜セットバックさせて、軒下や道が人々の居場所となるように計画。軒下空間を所有する専門店が連なる横丁らしい狭い路地のある小さな街を形成している。路地沿いの“はしごカウンター”に人が集うことで、「道」が機能としての通路から、客席であり社交場へとその存在を変化させ、人の姿が横丁全体の「風景」を創出する要素となるように意図した。
 どこかの街に実在する横丁の焼き直しではなく、“新・横丁”という新たな風景をつくるため、点在させたサイン看板による有機的な下の世界と、奥行きをつくり出す印象的なライン照明とスケルトンによる無機質な上の世界という、下部と上部で相反する風景が同居する断面構成とした。「旧市街/新首都」「懐かしさ/新しさ」「小さなスケール/大きなスケール」などの対照的な要素とイメージを同居させ、特定の場所や時代が持つ既視感を消去した。失われつつある昭和の東京と、新たな都市として開発が進む東京。そんな2020年のリアルな空気、変化し続ける混沌を、対比により際立たせて時間という概念を抽出することで、過去と未来が混ざり合うような“分からなさ”という感覚を魅力に変えたいと意図したものだ。
 「これ奥のお姉さんに渡して〜」と、店主からビールを手渡される。そんな横丁ならではの会話やにぎわいは、店主との距離感や客同士の関わり合いから生まれる。店のカウンターの奥行きや高さのみならず、あえて狭さや不便さに至るまで細かな寸法による体感の差異を設計することで、デザインが表層的なものにとどまらず、匂いや音や笑い声などがにじみ出す楽しい道における「豊かな体験を誘発するための装置」としていかに機能し得るのか、というデザインの可能性を追求したプロジェクトとなった。

data

竣工

2020年06月

所在地

東京都港区

用途

フードホール・飲食店

設計期間

2017.11-2019.10

施工期間

2019.07-2020.04

延床面積

1668.00㎡

credit

施工

セットアップ(店舗)

ジーク(共通環境)

プロデュース

ウェルカム

設計

コマースデザインセンター

照明計画

ModuleX

特注照明

ザ・トゥルー

TIME & STYLE

ジーク

家具

未来創作所

グラフィック

日本デザインセンター

写真

長谷川 健太

担当者(全体設計/監修)

吉田 愛

谷尻 誠

竹内 雅貴

原 一生

個店監修

江野 友里恵

五十嵐 克哉

伊藤 喜子

西尾 拓真

大木 翔

永井 健太

media

商店建築 2020年9月号