富岡町の家

継ぎ目のない内と外

山と海と町を見渡せる高台の敷地

大屋根と高床の通りテラスにより
日常の中に自然環境が溶け込ませることで
内が外と同化する原初的で
おおらかに過ごせる空間を作った

継ぎ目のない内と外

自然の美しさとはなんなのか。
かれこれ20年以上は考え続けているテーマだ。
計り知れないもの、うつろうもの、制御できないもの、未完成であり、未来に向けて未知な余白が存在することが、その要素のひとつなのかもしれない。そう考えてみると建築の立ち上がる建て方が完了した状態は、装飾がなく純度の高い空間であり、未来への余地がある状態ともいえる。

家主はキャンプやゴルフのように外での時間を過ごせるおおらかな住まいを望んでいた。自然の中で多くの時間を過ごし、食事、入浴、睡眠をとる行為は五感を研ぎ澄まし、日常の中にある音や香りなどの豊かさを再認識させてくれる。その体験は、心と体の健康を司っていて、住宅にも本来そういう体験が必要なのではないだろうか。

キャンプのように外を中心とした生活と違い、独立基礎で規則的に配された柱により大きな2つの切妻の屋根をかけ、守られた内部と外部を作り出す。キャンプでもタープの下にテントを張り、二重屋根で熱環境に対して対応することがあるのだが、同様に入れ籠状に居室を配し環境を整えた。眼下に富岡町を望み、海から吹く風を感じる屋根下の外部空間も生活導線の一部として取り込む。Villa形式の宿泊施設に泊まったときのように、移動における豊かさも加わり、自然を介して生活が展開される。

空間の余白は未来への変化の余白でもあり、建築の完成を竣工時ではなく、すこし先の未来に完成の概念がある状態としてくれるだろう。これから家主がこの場所を使い混んでいった時、この建築は完成する。基礎、柱、梁、屋根といった、建築を形作る上での最小限要素が、自然と人口的行為をつなぐきっかけとなる。自然の美しさ、そこに建築が存在することで自然はより顕在化し、心から健康に過ごすことの出来る、豊かな生活空間を提案したいと思う。

data

竣工

2022年03月

所在地

福島県双葉郡

用途

住宅

構造

W造

階数

平屋

設計期間

2019.11-2021.06

施工期間

2021.06-2022.03

敷地面積

1194.50㎡

建築面積

307.30㎡

延床面積

130.11㎡

credit

施工

芳賀沼製作

構造設計

NAWAKENJI-M

写真

矢野 紀行

担当者

谷尻 誠

吉田 愛

五十嵐 克哉

media

住宅特集 2023年3月号