敷地を読み込み、自然と向き合う。
敷地を見るということは、旅に出る時に地図を手に入れる行為にも似ている。大きな地図によって目的地と同時に周囲を知ることでもあり、つまりそれは、マクロとミクロで敷地を見るということでもあるだろう。
この敷地においては、尾道水道と呼ばれる川のような海が目の前に広がり、下流では緩やかに内海がカーブしていることを地図から読み取ることができた。そこで、川幅のような海に正対する視線から角度を振り、大きなカーブの先へと視線を導くことにした。どこまでも海が続くように見える視線を設計することがこの敷地において大切だということに気がついて、設計の方針が明確化された。
計画は、国道と海に挟まれた長方形の敷地に5枚の壁を時計回りに60度振った角度で配し、その間に生まれた4つの場所に、海との関係性を考えながら屋根を架ける。海に対して軒を深く配し、静かに海を望む場所や、ガラス屋根によってあたかも海を絵として感じる場所、大きく開放して海を感じる場所など、屋根の素材や角度によって建築と海との関係を多様化させている。
建築の存在が見慣れた風景を意識化させ、波や風の音、船の往来、海の中に生息する魚など、日常にあったけれども、気づかなかった豊かさをわれわれに教えてくれる。建て方を終えたばかりの夏、尾道の花火大会の花火が視線の先に現れた。それは、この地域からの贈り物のようでもあり、この建築の楽しみ方がまたひとつ増えた素敵な出来事であった。そうして、陽が沈む時間に現場に立ち会う機会に恵まれた。太陽は内海の真ん中へと沈んでいき、この住宅の計画がこの場所に相応しいと確信をもてた瞬間でもあった。
その場所の地形を読み取って設計すること。当然のことに向き合うことでたどり着く、自然の恩恵。自然に向き合い、自然につくること。今後も地図を片手に、周辺の建築との関係を丁寧に読み解きながら、よい旅を続けたいと思う。