外部のような室内

広島市から車で一時間ほどの距離に位置する夫婦と子供ひとりという3人の為のアトリエ併設の住宅である。

敷地は、西側には隣地建物が迫っているものの、前面道路以外の二方は市街化調整区域に指定された田園に面し、視界を遮るものがほとんどない恵まれた自然環境にある。一部にアトリエを設ける事とできる限り自然を感じる住宅にしたいというクライアントの要望を手がかりとして、この建物では生活空間を3層に分類し、上階に進むにしたがってプライバシーの濃度を上げる構成としながら、下階においては外部を取り込むのではなく「外部にもなり得る」開放的な場をイメージした。

構造的にはヤジロベエの様に主たる柱を中心部に配し、南北へ同距離のキャンティレバーにすることで角に柱がない構造とし、角部方立のないサッシ形状によって開け放てば部屋の領域を規定する幾何学的要素を消し去り空間を外部へも変化させる事も可能な形状とした。これによって、外部での食事・休息など、通常住宅内部では実現しえない空間になる事で、本来の生活にはない新たな豊かさを備えたものとなった。

夏期においては北側に居住スペースを配した事やキャンティレバーによる庇が直射を防ぎ、南北に風道のできる平面計画によって機械設備に頼る必要のない快適かつ経済的な住環境を実現した。一方冬季は、開放することで、発生する熱環境の問題においては、西日は全く期待できないが、日中入り込む日照をできるだけ積極的に取り込むため3方向を開口部とし、熱容量の大きい蓄熱材料として床面にはモルタルを採用し、温水式による床暖房設備を埋設する事で、冬期の熱環境を調整することとした。

この住宅は周辺環境を柔らかに受け止め、角部の柱を排除するといった小さな操作が多様な空間を生み出している。我々は普通である事への問いかけによって生まれる空間に、豊かな場への可能性を感じている。

data

竣工

2003年08月

所在地

広島県東広島市

用途

住宅

構造

S造

階数

地上3階建

設計期間

2002.07-2003.01

施工期間

2002.02-2003.08

敷地面積

234.89㎡

建築面積

69.05㎡

延床面積

115.29㎡

credit

施工

リブ

構造設計

SAK構造設計

施工:担当

上東 健治

写真

矢野 紀行

担当者

谷尻 誠

吉田 愛

大野 慶雄

media

住宅特集 2004年4月号

新しい住まいの設計 2004年10月号