敷地にそっと屋根を架ける
シンプルな操作で空間を生み出し、生活の中の多様な体験と共に、目の前に広がる水辺をゆったりと眺めることができる。そんな場所をつくることができないだろうか。
このプロジェクトは福岡市の貯水池に面した傾斜地に家族4人のための生活の場をつくる計画である。周辺の木々や草花は豊かに育ち、水辺に住まう多様な生物が時折顔をのぞかせる。そこに立っているだけで、自然の心地良さを贅沢に感じることができるような敷地である。この場所に屋根を架けるという行為によって、閉鎖と解放という概念を生じさせる。
敷地に既に散りばめられている空間というコンディションを屋根によって顕在化させ、そこに多様な生活の場を生み出すことを考えた。
エントランスを入ると、壁で囲われながらも天井の高い少し閉鎖的なホール、その奥に洗面や浴室、トイレやW.I.Cなどのコアが配置されている。そこから水辺の方へ視線を向けると、屋根によって切り取られた開口部から水面だけが映し出され、まるで水辺に浮かぶ舟に乗っているような感覚を覚える。さらに階段を下りて水辺へと移動すると、視線の先に映し出される風景が移ろい、空間の濃度はだんだんと変わりゆく。あるところでは原っぱの中の小屋に籠るような静かな空間、あるところでは水辺のベンチに腰をかけ時間の流れを感じるおおらかな空間。
すべての風景を見通せる空き地であった場所が、屋根によっ
て空間化され、環境に身を委ねながら生活を送る住まいとなる。屋根と地面の間にガラスをはめ込み内部といわれる場所になった空間では、周辺の環境変化に鋭敏となり、次第に建築は環境と同化していく。
どこまでが環境でどこまでが建築なのか、曖昧だけれども明確にある境界線。その境界の領域性に興味がある。ここでは複雑さを含むシンプル、そんな建築を目指した。