都市の中の“人工的自然”
下北沢という街は魅力的だ。ヒューマンスケールの細い路地には多種多様なジャンルの個人商店が所狭しと肩を寄せ合うように連なり、その風景には多様性や寛容さなど人間味を感じる。時代の変遷と共に人が作り上げてきた街はその成り立ち自体が自然発生的で人工物でありながら自然とも感じられ、我々はその混沌が生む人工的自然の中に、自分だけの場所や心地よい居場所を見い出している様におもう。
再開発が進む現在の下北沢においてもそれらの居心地の良さを継承した「動物として本能的に落ち着ける場」を目指したいと考えた。計画地の2mの高低差のある立地条件を活かし最大5mある天井高のちょうど真ん中あたりで空間を上下に二分する計画とした。下部の空間はコーヒー原料であるコーヒーチェリーの赤、珈琲が栽培される赤道付近コーヒーベルトと呼ばれる地域の乾いた赤土やレンガを引用しコーヒー栽培における原風景を想起させる仕上げで覆い、逆に上部は既存躯体のままとすることで空間にコントラストを作った。キッチン上に増床した植栽エリアの濃緑の熱帯植物の存在は、赤褐色の仕上げとの補色関係により鮮やかな印象と屋外のような開放感を作り出し商店街側から階段を下って洞窟の中に潜り込むような体験により街とのグラデーショナルな繋がりが生まれた。
猿田彦珈琲の世界観と下北沢の街の混沌とした風景との調和を目指すことで、本物の自然と寄り添うことが難しい東京のような都市における居場所の在り方や"人工的自然"という空間性の新たな可能性について思考するプロジェクトとなった。