渓谷の自然の変化を感じる
ジョンケージの4'33"。 John cages's 4'33"
ピアノの演奏会で演奏をしなかったことで有名な出来事。
音を感じるために静けさについて考える事、すでにそこにあるものの豊かさについて考える事。それがきっと豊かさの始まりなのかもしれない。
敷地は等々力渓谷に面する傾斜地。そこには絵画のように美しい景色が広がっていた。通常であれば地面から上へと建築を計画するが、ここでは斜面に建物を埋め込むように配置することで渓谷の木々と親密な関係を築き、緑や鳥の声、小川のせせらぎなど、この場所に既にあるものの豊かさを最大限享受できる建築のあり方を模索した。
斜面側にドライエリアを設け採光と通風を確保し、渓谷側には大開口を設け、土の中に埋めながらも通風が良好な環境を確保できる計画とし、地階で有りながらも地上階のような状態を目指した。
建築のあり方もこの場所と同様に決して華美な装飾をしないことで、自然を楽しむための空間になることを意識しながら、マテリアルを選定していった。ただ自然のうつろいと隣り合わせで生活すること。それは日常を忘れる空間ではなく、日常を豊かにする空間である。
渓谷にそっと寄り添い、ただ自然の変化を感じること。便利で多くの情報が流れる現代社会において、なにもないことについて考える事。すでにこの場所にあるものに耳をすまし、改めて自然のおおらかさを感じながらゆっくりとした時間をすごして欲しいという思いをこめて、森音テラスと名付けた。静けさの中にある音、そんな建築に近づけたのではないかと思う。