有機的な抽象化
建築を考えるとき、細く、薄く、そして線を減らすことで、自然と抽象化を図ろうとする習慣がある。そうやって建築をつくってきたのも確かだ。どこかで削ぎ落としていく作業は、生活に無理を強いることも時折あって、生活と建築の美しさという折り合いのつけ方に僕たちは悩んできた。かたや情報が多くなれば要求される事柄も増えていく中で、その要望や条件を建築の魅力として定義することが出来ないものなのかと考える様になった。それは一枚の紙に、要望や問題、提案、空間、様々な要素を書き続けた結果、最後には一枚の黒という紙になる、多様なシンプルという概念のように。ぼくたちは、そこにできたものを有機的抽象化と呼ぶことにした。
敷地は高台で、遠くに神戸市内を望む閑静な住宅地の雛壇形状の敷地での計画。
法的な制約のなかで、可能な限り大きな気積を設計しながら、敷地形状に逆らうことなく断面を計画し鉄骨門型フレームを一定のリズムで配し、そこにスラブを挿入する形で、いくつかの場所を作り出した。従来の建築のつくられ方とは違い、真壁でつくられた木造家屋のように鉄骨構造体を表し、あえて線を増やすことで生まれる陰影が空間の奥行きを描き、構造的要素をインテリアの要素へと繋いでいった。室内の家具、照明、取っ手などの細部も空間と同様に線を足しながら陰影をつくり、建築と家具とが等価に扱われるよう細部まで設計を試みた。
過去に遡れば、建築家はその場所を読み取り、建築を設計することはもとより、インテリアデザイン、家具、照明、そして材料までもを考え、ひとつの建築を作っていた。現代は材料も工法も家具や照明も選ぶ時代になっている。だからこそ先人に学び、現代の情報を受け入れながら、建築やインテリアという境界線を越えて、細部まで設計を試みて行くことで、一枚の黒の紙として統合された、新しい建築の姿があると信じている。