「まち」と「企業」のこれからの在り方
求められたのは、新しい知的生産の場。建物内部に留まることのないオフィスの在り方であった。
昔は家の機能がまちに分散され、冷蔵庫の役割を酒屋さんが、お風呂の役割を銭湯が担うといったように、人々はまち全体を使って生活していた。分散することで、移動の合間にコミュニケーションが自然と生まれていたが、建物内に全ての機能が集約されたことによって、コミュニケーションが希薄になった現在がある。
鎌倉のまちには、面白法人カヤックのオフィスが点在している。まちの社員食堂、まちの保育園、分室など、分散された機能によって、まちがオフィスとして機能し始め、現代ならではのつながりを生み出す。敷地周辺の家屋も分室として使われており、住宅とオフィスの境界が曖昧になっている状況から、周辺環境のもつコンテクストを新しいオフィスに、とりこむ計画とした。
住宅に頻繁に用いられる、アルミサッシやガルバリウム鋼板、木造の柱梁など、一般住宅で見慣れた材料を集積し、スケールの操作を行うことで、どこか見慣れたことのある雰囲気を持ちながらも、オフィスとしての新鮮さを作り出すことを試みた。
道路を挟んで建つ2棟を繋ぐように、各棟の1階床仕上げを道路と同じくアスファルト舗装とし、建物内部にまちの要素を引き込み内と外、まちとオフィス、仕事と生活、社員とまちの人、社内と社外の関わりを助長する空間を目指した。
オフィスが労働生産の場から知的生産の場となりつつある昨今では、如何に創造性を引き出すかが重要視されつつある。今までの、社内コミュニケーションのみならず、まちと一体となって働き方を考えていくことで、新たな価値観が生まれる。それは、地域との信頼や結びつきをも促し、社会全体の効率性をも高めることに繋がってゆく。この人のつながりやコミュニティーといったいわゆる「社会関係資本」が、この地域固有の魅力となり、それを伝え続けることで、鎌倉という地が、多様な知的生産の場になっていくことを願う。