敷地に敬意を払うこと
建築よりも遙か昔からその場所に存在していた自然に対し、建築はどうそこに建つべきなのか。
はじめて敷地を訪れた時、渓流の脇には大きな岩があり、その岩と同様に自然物としての建築が存在するイメージを思い描いた。
渓流添いに建築するためには、敷地拡張を行い、一期工事として接道のある上段敷地に最小限の用途での建築をつくることが行政の指導によって条件として求められた。樹木の覆い茂る上段敷地においては、植物と建築が調和した建築をつくることを基軸に計画を進めた。
自然環境に恵まれたこの場所を、既にランドスケープが先行して完成を迎えている場所として捉えるならば、そこにある風景を切り取るための、窓の位置・形やサイズから空間の気積を考え、プランを計画することが自然な流れとも言える。
その他、眠るための場所と必用最低限の水回りそれぞれをボリュームとして、ずらしながら配し、各々のボリュームに屋根をかけることで建築の形態が自然と導かれた。屋根勾配によって垂れ壁を構成し、開口上部に暗がりを作り出すと同時に、木造でありながらL型の大開口を実現することで、暗がりのある静かで落ち着いた室内と風景とが、一体化する構造形式を採用した。
マテリアルについては、カタログから選ぶという行為を見直し、その場所にある材料を建築の材料として捉え用いることがその場所に相応しい建築をつくることにも繋がると考えた。植栽を建築の仕上げ材料として扱い、将来的に自然が建築を抱きかかえ、風景と建築が調和し、植物によって作り出された影が、熱負荷を抑えることにも寄与する。ランドスケープを考えることが建築を考えることであり、同時に建築を導き出す存在とも言える。
建築と自然が同居し建築が風景として成立すること、それはこの場所の自然に従うことであり、建築が誇示することなく敷地に敬意を払うことにも繋がっていくのではないだろうか。
この建築は日々成長し続ける。
植物が建築という人工物に植生し、時間とともに周辺に溶け込んで行く未来に
本当の意味での、完成が訪れる。