同居の時代
ひと昔前の商店街では抱っこひもをバッテンにかけたお母さんが、赤子を背負いながら玄関先では商いをし、同時に家事をこなしていた。そこには住宅でありながらも他者が介入してくる余白があり、公共性の原型とも言える状況があったが、近年は利便性や効率性の追求の為、あらゆるものがセグメントされ、同居が生まれない環境になった。生産性だけを求めていた時代から、社会が多様になる一途である現代において、建築のあり方から捉え直すことが、改めて必要だと考える。
hotel koe tokyoは渋谷の中心にアパレルブランドの旗艦店を設計するプロジェクトであり、3年前から、企画も含め設計をすることが求められた。通常のアパレルショップは12時から20時での営業形態をとっているが、言い換えれば1日の中で3分の1しか洋服に触れることができない状態とも言える。そこでわれわれは24時間を使ってKoeというブラントの思想を伝えていくための場所として、ホテルでアパレルの店舗を展開することを提案した。
渋谷にはクラブやレコードショップが多くある町のカルチャーとの親和性から、1階はレストランとポップアップスペースとし、週末には大階段を利用したライブや、クラブとしての顔を持たせ、2階はアパレル、3階にバーラウンジ、客室を計画した。食を求めて来たはずがファッションに出会い、音楽を聴きに来たはずが食の空間に触れ、観光で来たはずがクラブで他者と一緒に踊る、そんな複合的な体験をつくるために、この場所に「ホテルというエントランス」を設定した。渋谷というまちの雑踏とホテルという静寂、ファッションを伝えるための異なる用途、関係性を設計することによって生まれる強いコントラストが、渋谷のカルチャーをつくることに繋がることを意図した。
オープン後、大階段では公園で談話するかのようなシーンや、週末の夜にはライブやクラブシーンになっている姿が見られる。レストランというエントランスの向こう側にレストランがあるのではなく、エントランスとは違う用途がそこに用意された時、人は既成概念を覆され、それによって、新しいという経験を手に入れる。画一的な機能から建築がつくられてきた過去から、機能が動的なものへと変化する時、建築の姿はどうあるべきなのか。それについて考えることが、これからの建築を考える種になるのではないだろうか。まちの一部を設計する、つまり、この場所の存在意義を設計することが、このプロジェクトの骨格であったと、振り返り思う。