Mt.Fuji Brewing

異なるスケールの共存

大きな気積が必要な醸造所と
低い庇で風景を切り取り
公園の借景を望みながら
食事を楽しめるレストランを
のこぎり屋根の構成により統合し
相反するスケールを
大らかな一つの屋根でつなぐことで
様々なコントラストを持つ多様な場が
生まれることを意図した

味わいを助長する空間

美味さとは単に「味」だけでなく、過ごす場所や時間、ストーリーなどの背景に起因する。初めて現地を訪れた際に目にしたのは浅間大社の満開の桜並木とそこに集う人々。
この美しい借景を活かした建築により一杯のビールをより味わい深いものへと助長する空間の在り方について考えたプロジェクトである。

富士山の麓、古来より富士信仰の総本社である富士山本宮浅間大社の広大な境内と長い年月をかけ富士山からの伏流水が流れる湧玉池を水源とする川に隣接した敷地に、清らかな湧水を用いてクラフトビールを醸造するブリュワリーにおいて、豊かな自然の恩恵を受けた地域の食材を使った料理と共に地域の循環に根付いた場を目指した。
大らかな富士の稜線に習った勾配屋根により、空間を異なる高さで分節させ、「機械と用途により大きな気積が必要な醸造所」と「低い軒で隣地の桜並木と澄み切った川を借景として取り込む客席」をゆるやかに分けながらも一つの空間に統合し、周辺環境と連続的につながる構成とした。また、内と外を等価に扱い、屋外の深い軒下空間にはカウンターやベンチなど多様な拠り所をつくり、公園や道路、街に対しても賑わいが滲みだすことを意図した。

雨が降り、森が育み、水が生まれる自然の巡りを体で感じ美しいと思うように、土地の恩恵である原材料から手仕事による生産、水と醸造と空間が相互扶助する関係を訪れた人が自然と味覚や嗅覚など身体的に体験できるよう丁寧に設計することで、味わいが助長される空間。一杯の美味しさを通じ、この土地の豊かさや地域の営みを感じ、街の新たな魅力が熟成されることを願う。

data

竣工

2019年03月

所在地

静岡県富士宮市

種別

レストラン

階数

平屋建

設計期間

2017.01-2018.04

施工期間

2018.05-2019.03

敷地面積

1464.22㎡

建築面積

478.64㎡

延床面積

433.33㎡

credit

施工

加和太建設

構造設計

NAWAKENJI-M

設備設計

ZO設計室

照明計画

Modulex

植栽計画

SOLSO

写真

長谷川 健太

担当者

谷尻 誠

吉田 愛

五十嵐 理人

道上 拓哉

media

商店建築 2020年7月号