ファサードを持たないショップ
ファサードを作らない。コロナの蔓延により世の中や価値観が大きく変化する時世において “空間を内部化する”ことから始めるこれまでの店つくりの常識を疑い“外”の扱いについて改めてスタートラインを引き直して考えること。また「経済性」「時代性」「ブランドの表現」というこのプロジェクトにおける三つの課題を解くための手段としてファサードを持たないショップを前提に“外と中の境界線”を模索することから計画を始めた。
NAKAGAMIのショップは売場でありプレスルームでもある。同時にブランドの世界観を伝えるための装置としても機能するよう、テナント面積60平米の敷地を使い最小限の操作で最大の効果を生む方法について考えた。ヒントになったのはガラガラとシャッターを開ければすぐそこが店になるアーケードに面した商店街の構成だ。但しアパレルショップでは八百屋のように気軽に商品を手に取れる環境よりも商品の見せ方や扱い方が大事になる。そこで3×7mの洋服のための大きなショーケースを作り、外壁ラインからセットバックした位置に角度をふって配置することで商品のための部屋と路地のような3つの軒下空間を生みだした。ショーケースのフレームは建築材として裏方で使用される配線用部材で構成し、ブラウンのポリカーボネート波板とネイビーのカーペットの組み合わせにより、チープな材でありながらも繊細なディテールやシックな色彩でハイコントラストな状況をつくり、異素材の組み合わせによる違和感や伝統的なアイテムを現代的に再構築する視点を持つブランドの世界観を体現する要素とした。
境界線を曖昧にすることで生まれた街との隙間は、音楽やコーヒーなど商品以外の出来事を通して人との繋がりを生み出すきっかけの場となり、洋服と共にNAKAGAMIのスタンスを“伝えるためのショップ”としての機能を担う余白となった。すべてを作らないことで手に入れた変化を許容する余地、そこでの様々な表現が移ろう風景となり街に溶け込む。そんなシーンを想像してデザインをした。