感覚をニュートラルに戻す場所
東京における都市のデザインは、とかく声が大きくなりがちである。街は多くの情報を発し、私たちは無自覚のうちに、感覚のボリュームを絞りながら都市と向き合っている。
一方、本計画はカリグラフィー用品や紙製品、文具などを扱う店舗である。ペンの書き心地や紙の質感といったわずかな差異に向き合うためには、都市の中で閉じかけた感覚を、ニュートラルな状態へ戻す環境が必要だと考えた。加えて、和洋いずれの製品も受け止める背景としての空間が求められた。
既存店舗には、レンガ腰壁、コンクリートブロック壁、蛍光灯など、時間の中で折り重なってきた痕跡が残っていた。それらを一新するのではなく、温かみを帯びたグレーのリシンで全体をやわらかく覆い、空間をひとつの「地」として整えている。既存の輪郭は背景へ溶け込みながらも、この場所の個性として静かに残る。
棚板や天板にはラワン合板を用い、地の色味を揃えつつ、わずかに白く染色した。板厚や目地、納まりを丁寧に詰めることで、カジュアルな素材に手仕事の繊細さを宿し、洗練された製品と共鳴する佇まいとしている。
また、併設するワークショップスペースには、ハタノワタル氏による和紙の大テーブルとカウンター、既存蛍光灯をリメイクしたペンダントライトを設えた。空間に溶け込みながらも、手触りや光の陰影が、手を動かす人の感覚に働きかける。
多様な製品を引き立てる背景として佇みながらも、素材や光、納まりによって静かな存在感を備え、訪れる人が感性をひらいて製品と向き合える空間となることを願っている。