過去と未来が交差する場
■01 浅間温泉小柳の再生計画について
2018年の春よりスタートした浅間温泉の老舗旅館「小柳」の再生計画では、創業300年を超える湯宿の町の面影を残しつつ“本”を中心とした複合文化施設として旅館を生まれ変わらせること。また同時に温泉街の歴史を未来につなぐため「街と人・観光と地域」を繋げる接点としての役割を担う場となること。
これら2つの考えを具現化するために “過去と現在が交差する空間”という概念でこの施設のリノベーションの計画を始めました。四方を山に囲まれた土着的な風景と城下町としての街並み。想像していたそんな松本らしさに対し、ここ浅間温泉は、昭和・平成の時代に建てられたコンクリート造の建築が連なる時代に取り残された“ザ・温泉旅館街”でした。
私達はそんな昭和の温泉宿特有の時代感や匂いを消し去るのではなく、いかにチャーミングに残し活かすかを考え躯体の上に仕上げられた旅館らしさという厚化粧を解体する行為自体をデザインとして計画。現れた既存躯体を手掛かりに大宴会場や大浴場をレストランやライブラリー空間として活かした“過去と現在の対比”を設計しています。ザ・温泉旅館の記憶を残すことによって新築では起こらない状況「大宴会場+本」や「浴場+本」という違和感のある個性的な風景と体験をつくりだしました。それらがこのエリの新しい魅力かつ拠点となり街に良きサイクルと関係性をつくるきっかけとなるよう計画しました。
■02 松本本箱について
松本本箱は書店やレストランを併設した全室露天風呂付き24室のホテルとして計画しています。本箱が空間を作り、ここでの過ごし方を定義する存在となることで本と人の居場所の境界線をなくし、宿泊施設と書店という異なる要素が心地よく同居する関係性を考えました。残すもの活かすものを編集することで空間をつくる。ここで残したのは旅館の記憶です。
昭和旅館の赤絨毯の印象を錆止め塗装に見立て、鉄筋コンクリート造の旅館に足りなかったしっとりとした色気と居場所は、低く抑えた朱色の軒を挿入することで旅館の記憶をアップデートし本を読むための新たな空間として設計。また解体で出る廃材を材料として障子枠で製作した行燈照明、使われなくなった浴槽や洗い場を活かしたボールプールなど。アップサイクルという思考で価値を失ったものに新たな用途を与え価値化するデザインによって、このプロジェクトの本質や再生という視点を感じらえる場にしたいと考えました。