毘沙門の家

現代の高床式住居

傾斜地という一見すると
ネガティブな敷地に潜む魅力を
高床式の住宅という先人の知恵と
現代の建築技術を合わせ
魅力的な敷地へと条件を
変換させることを考えた

現代の高床式住居

現代の高床式住居を考えたプロジェクトである。広島市内を一望できる、高台の斜面に建つ店舗兼住宅だ。広島市内から車で30分ほどのところにある見晴らしのよい場所に、敷地開発によって住宅団地が計画され、その結果として取り残された敷地があった。そこは自然の地形がそのまま残されており、広島市内を見渡すことができる。傾斜地という以外は非常に魅力的な敷地であった。敷地を平坦にするために造成することは可能だとしても、建築のコストとのバランスを考えると適切な判断ではないことが容易に想像でき、この眺望を活かしながら、敷地に最小限の工事で建築をつくる方法を求められた。

時代を遡ってみれば、太古の昔、人は建物を高床によって地面から持ち上げ、獣から身を守ると同時に通風など、良好な生活空間を手に入れていた。そこで我々は、先人たちの知恵を現代に継承した高床式の住宅を考えることが、ひとつの回答になるのではないかと考えた。

構造は合理性を追求した。通常は柱で屋根を支え、地震の揺れに対して筋交いを用いるのだが、この家では6本の鉄骨柱を合掌形式で組み、鉛直力と地震力に対して有効に働く形状とした。それはあたかもブランコのフレームのようであった。2本の柱をあわせたシンプルな支柱が様々な揺れに対応する。そこに3枚のスラブを挿入することで、商業空間と生活空間をつくり出した。基礎も比較的強靭な地盤の条件を活かし、6本柱の脚下それぞれに独立のコンクリート基礎を持つ構造とし、敷地の掘削範囲を最小限に抑える計画とした。

日本の一般的な不動産価値基準は平坦で南向きの敷地の価値が高いとされるが、傾斜地という一見ネガティブな敷地に潜む魅力を、先人の知恵と現代の建築技術を合わせることで、魅力的な敷地へと条件を変換させることができたのではないだろうか。

土地の造成は土木工事、建物は建築工事とセグメントされている前提を再度最初から考え直し、高床というシンプルな建築工事によって建築が成立したことで、多くの敷地に潜む価値が多様化していくことを私たちは強く望んでいる。

data

竣工

2003年04月

所在地

広島県広島市

用途

住宅

構造

鉄骨造

階数

地上3階建

施工期間

2002.11-2003.04

敷地面積

701.59㎡

建築面積

80.2㎡

延床面積

189.88㎡

credit

施工

アルフ

構造設計

SAK構造設計

写真

矢野 紀行

市川かおり

担当者

谷尻 誠

吉田 愛

大野 慶雄

media

MODERN LIVING #158

新しい住まいの設計 2004年2月号

年鑑日本の空間デザイン〈2004〉