外部に見立てられた名前のない空間
古代からあるものを別のものに置き換えて表現する事を「見立て」と呼んできた。この計画では室内を外部に見立てる事によって、全ての室があたかも庭を持つ空間を目指している。我々が外部を感じる要素として、室内があることがあげられる。外部しかない世界では外部が語られないように、内部があることによって、外部が定義されるのである。
接道の多い変形敷地に添うように建物の外形を決め、接道がない側は建物をセットバックさせ、周囲に空地を計画し、外壁ラインからセットバックすることで、室内の中にもうひとつの室内を作り出している。昔の家でいうならば縁側のような場所であるが、ここでは最小限の柱、梁によるラーメン構造によって、自由な開口が計画出来るので、ふたつの部屋の関係は自然と、明るい場所と、落ち着いた場所、ふたつの関係性が生まれることになる。その結果、落ち着いた場所から見る、もう一つの部屋の風景は室内でありながらも、あたかもそこに外部が存在しているかのような状態になっている。外部と内部のあいだにある、部屋のような外部が、都市と住居とのあいだともいえる場所になり、住まい方によっては、都市に住んでいるかのような生活や、逆に都市との距離を保つ静かな生活を、住まい手がつくっていくことを可能にしている。
外部に見立てられたニュートラルな空間は、植物がおかれることで庭になり、デスクやPCがおかれると仕事部屋に、ベッドがおかれると住まいとして、住まい手が外部のような場所をきままに使う事で、機能が生まれ、その結果その場所には部屋の名前がついていくことになるであろう。行為が空間を規定できる、空間の役割について今後も考えて行きたいと思う。