大屋根が作り出す内部と外部のあいだ
新しいリノベーションのあり方とはどのようなものだろうか。
千葉市の閑静な住宅地の小高い丘の上に建物は建っている。周囲よりも少し高いところに敷地があるため、隣地に運動公園の緑地や、街への眺望が獲得できる恵まれた環境下での計画である。既存住宅は、大きな庭のある築35年余の木造二階建てで、今回の計画においてスペースの拡張と、新しい和風について考えて欲しいとの要望から、我々は計画を始めた。
舞台というものは、演者と観客による、笑わせる、または笑われるという関係によって成立しているが、もうひとつ、観客側が自ら笑うという状態がある。それは観る側が能動的に舞台に参加する状態になることで、観る側の脳を借りること(借脳)で舞台が完成する概念である。
この住宅では、建築における借脳的な状態を設計することで、この場所に長く住み続けてきた家族の思考を設計の要素として取り込むことを考えた。具体的には、既存建物の屋根を減築し、新しい大屋根をかけ替えることで、今まで庭であった場所を室内化する計画である。庭から観た建物の記憶を活かし、既存建物の外側が室内化されることによって、庭にいる感覚を残しながらも新しい家族の居場所をつくることで、記憶によって導かれる精神的な開放感と、実質的な拡がりのある開放感、その両方を設計した。
それはこの場所の記憶を継承することでもあると同時に、屋外と屋内のあいだについて考えることでもあり、増築することで、限りなく外部に近い内部空間が生まれ、季節や気候、時間によって変化する環境の微差を感じることの出来る場所がここに生まれた。敷地と建物の関係、外部と内部の関係、現在と過去の関係、様々な関係性を再考することで、その中にある大きな領域について考えていくことでもあったように今は思う。建築という行為に時間の概念が加わることによって、人の記憶と建築によって完成する建築が、新しいリノベーションの姿を示唆することになったのではないだろうか。