散りばめられたフレームによる空間
映画の構成から空間のデザインへ。
「小津安二郎の世界観」。オーナーの大塚さんが話した言葉の意味を探求することから猿田彦珈琲the bridge原宿駅店プロジェクトがはじまった。そのぼんやりとした言葉の中にある、要素を分解、採集を行い、我々はフレームインフレーム、和のグリッドという言葉を抽出した。小津映画の特徴たるシーンの背景にフレームが配置される構成によって、ふと気づくと日本の昔の風景を自然と連想させる原理がそこには潜んでいることに気づいた。
映画の世界を忠実に表現するのではなく、猿田彦珈琲という現代の珈琲屋をつくる上で、その原理を空間に配しながら、人の背景となるフレームワークの組み合わせが、美しいシーンをつくる映画の構成を空間に置き換えながらデザインをした。
天井格子、障子、タイル割り、軽鉄、畳、棚割、建具など、空間の中にクレームワークを散りばめると同時に、線形を顕在化させる左官面を配し、コントラストを生み、背景としての空間を目指した。
ある部分では軒をつくり天井を低くすることで落ち着きや奥行きを生み出し、路地空間を散歩するかのように回遊可能な平面計画とした。窓から見える街の電光掲示板や大型モニターの情報を現代の日本風景と捉え、あえて遮ることはせず受け入れ、現代の借景と捉えた。昔の空間には存在しなかった、鉄、カーペットなどの現代の材料が加わり、過去と現在が同居する、「現代の日本らしい珈琲屋」となった。
新しい空間を求めることは、時として過去への探求が、その応えになりうる、そのひとつの事例になれたのではないだろうか。