自由という可能性
建築は大きい/小さい、高い/低いでつくられる。
そんな当たり前のことに真摯に向き合い、住まい手が使い方を発見したり、思うがまま振る舞うことのできる自由な空間をつくれないか。
敷地は人通りの多い生活道路に面していて、クライアントはこの敷地にプライバシーを守りながら、家族がいつもお互いを感じられる家を望まれた。
大きな岩のような建物の外形は、内外の要請(家族が繋がる空間、プライバシー確保、採光、斜線、駐車場など)から導かれ、内部は3層吹き抜けと大階段、住むための機能を格納した部屋群で構成されている。
くの字にすぼめたボリュームの中に大階段を設け、相反するスケールを同時に体感できる空間をつくりだした。大階段の上りはじめは気積の大きな空間で、上っていくと天井が徐々に近づき、小さな空間に変化する。移動とともに身体スケールが伸縮し、使い方や関係性を自由に選ぶことができる。階段としての機能はもとより、リビングとなり、ベンチとなり、時には最下段をステージとした劇場にもなり、立体的に家族をつなぐ場所になる。
建築から家具までを最小限の素材、大階段と同じ「段状」のつくり方で等価に扱い、一つの建築として統合する。こうした操作によって、大階段にリビングやベンチなど住まいの機能が混ざり、拡張され、行為やスケールに束縛されない自由な空間をつくりだした。
少ないマテリアルとシンプルなスケールの操作だけで豊かな空間をつくりだすことを目指した。住まい手の生活の可能性を押し広げ、何を受け入れても変わることのない空間の強度を持つ、自由という可能性を形にした建築である。