空間構造の概念を取り払うことで生まれる”体験”の設計
「丼一杯のフルコースが作りたい」これは、オーナーの石塚氏の"らぁ麺"作りに対する思いである。その背景には、厨房で膨大な時間をかけて食材の研究や実験を何度も行われ、やっとお客様に辿り着くからこその思いである。お店のあり方自体も、料理家の好奇心と追求過程を体現できる場所にできないかと模索するところからこのプロジェクトは始まった。
9坪というコンパクトな店舗面積を逆手にとり、厨房と客席という飲食店の空間構造を取り払い“商業空間の共用部に突如あらわれる厨房"を表現するため、壁や天井の意匠を実際の厨房から店内へとシームレスに繋ぎテーブルや照明も厨房機材で構成し1つの空間として成立させることとした。
店内に入った瞬間から香りや調理の音、料理人の所作も含め作るところから食べる事までをひとつのフルコースとして楽しむことの出来る"特別な場所に招かれたかのような体験"としての場を設計している。また「佇まいとしての違和感」を放つ店構え自体がサイン看板の役割を担うことも同時に意図した。
新しいかたちを追求し続ける料理人の「変化を楽しむ好奇心」と共に、厨房と客席という概念を無くすことによる空間構成の新しい可能性とここでしか味わえない体験を思考するプロジェクトとなった。